通訳に関する記事を読んで

通訳は格闘技だ。高度なスキルを操る言葉のプロフェッショナルたち

同時通訳の凄さ

上記の記事を読んで、確かに通訳、特にこの記事になっている同時通訳は、すごいものがあると以前から感じていた。
少しでも通訳をしたことのある人はわかると思うが、とにかく2つの言語に集中するだけでなく、話の流れを読まなければならないし、相手が理解しているか、自分の通訳していることを依頼者が理解しているか、常に気を払う必要がある。
家族や友人が旅行で来て、街を案内する。多少通訳が間違っても、笑って過ごせるが、仕事の場合はそうはいかない。

探り合いでもある。

以前私が勤めた日系の会社では、取引先との会議でドイツ語と日本語の通訳をしたが、私が勤務するまでは通訳を雇わず、お互い英語でやりとりをしていたそうだ。
取引先のドイツ人が二人と日本人がその時はたまたま出張者が来ていて、自分を入れて4人だった。

私は初めてだったので、軽く挨拶をした。もちろんドイツ語で。
そうすると、先方のドイツ人は、「そうか、君はドイツ語がうまいよね。ほとんど完璧のようだね?」というので、「全くそんなことはない」と伝えるが、いきなり警戒されているのがわかった。仕事の場は駆け引きです。間違った方向に進んだり、勘違いもある。
日本人のスタッフも皆英語が堪能であったので、所々英語でのやりとりもあったが、マネージャーから言われていたことは、「彼らはいつもドイツ語でヒソヒソ話すから、それを拾ってほしい」ということ。

ドイツ語ができる人間がいるのがすでにバレているから、あまり不要なことは言わないと思ったが、それでも、会議中にヒソヒソ話をしていた。
その内容を必死でノートに書いていたのを思い出す。

自分のことを説明するならどうにでもなる

通訳はただ言葉ができるだけでは、全く務まらないのは明白。
例えば、面接で自分のことを話せと言われたり、質問に答えることは、自分のペースに持ち込んで話せるため、極度の緊張状態でなければ比較的大丈夫だ。
しかし、通訳はそうはいかない。微妙なニュアンスも伝わらないと、相手も決定をしかねるし、判断ミスもあり得る。
会議で自分の務めた通訳は、同時通訳ではなかったが、それでも普段かかない汗をかいた思い出がある。

欧州のビジネスマンは常に見ている

独立してからは、自分が主体で顧客とのミーティングに出向くわけだが、何年も前にあったシチュエーションは、今思えば大事な自分の力試しでもあったし、勉強にもなった。
新しい契約内容についてのミーティングだったが、相手の母国語はフランス語ということで、社長と役員が2名だった。
最初から、少し番狂わせがあった。まず役員の同席は聞いていなかったし、先方の日本人スタッフが社長と同席するはずだったが、それも無し。
さらには、フランス語は当方はできないので、英語での会議ということだったが、ドイツ語ができると聞いて、ドイツ語に変わった。これは私には良い方に転がった。
ドイツ語中心の生活に変わってからは、英語はメールが主になっていて、会話はあまりしていなかったから、だいぶぎこちなかったからだ。

余計な理解力

会議が進んで、重要な決定になると、社長と役員がフランス語でヒソヒソ話を始める。私には、何を言っているかはわからないが、専門用語などが出ていたので、ざっくりどのテーマを話しているかは、想像ができた。無意識に、首を縦にふってうなづいていた。
その余計な理解力が少し誤解を招いてしまい、「君は本当はフランス語わかるだろ?」と会議中に何度も確認されてしまった。完全に疑っていたが、本当にフランス語はわからない、と言って、なんとか理解してもらったが、相手の洞察力もなかなかすごいなと思った。
それでも、前述のドイツ人との会議と同じで、会議中ひそひそ話をする。

ミーティングの日程も戦略に

そうこうしているうちに、ミーティングは無事に終わりに近づいて、お互い満足な空気が漂い、「じゃあ、そちらの新たな契約見積もりをお待ちしています。」という風に言ってきたので、この時点で契約続行を確信し、「必ず良い提案内容を近日中にお伝えします」と言って、いまだ!と思った。

最後に用意していた内容だけは飲んでもらおうと、実は言うタイミングを待っていたのだ。すかさず社長の目を見てその事を聞くと、役員とお互い目を合わせ、一瞬間があったが、二人とも笑顔でうなづいた。
「OK、じゃあその件は、それで良いから、より良い条件で待ってるよ。」
相手の目をしっかり見て伝えることの大事さを実感した瞬間だった。

その日は金曜日の午後、明日は週末だ。欧州の人にとって、週末は大事で、金曜日の午後は機嫌の良いことが多い。
面倒臭いミーティングをさっさと済ませて、週末家族とゆっくり過ごしたい、と思っているのは当然で、社長や役員なら尚更、普段のプレッシャーも大きいので、その気持ちが強い。
この金曜日の午後の日程も、こちらがなんとか頼んでお願いした日程であった。

人間というのは、常に時間に左右されているし、効率よく短時間で物事が解決したときほど、心地いいものは無い。
こちらの戦略というと、大げさだが、このミーティングは最初の番狂せから、なんとか挽回し、納得のいく結果が出た良い例だった。

通訳のテーマとは、少しずれたが、外国語でのやりとり、駆け引きは、限られた時間内での勝負だ。
その限られた時間が、同時通訳は極端に短い。プレッシャーも半端ないことだと思いながら、記事を読み、自分の経験を思い出させてくれた。